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ヒロの旋風                         山本健一

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壮絶な打ち合いの果て、試合はすでに延長戦に入っていた。
Jリーグ2NDステージ第13節、ジェフ市原対アビスパ福岡。
この試合、市原はとにかく勝利こそすれば、一部残留が決定的になる。だが福岡にとっても優勝争いに踏みとどまるためにはもう負けは許されない、そんな状況での一戦だった。
 そんな互いの執念からか試合は激しい点の取り合いになる。
前半3分、コーナーキックから小倉のヘッドで市原が久しぶりに先制すると福岡もシーズン途中で加入してきたビスコンティの得点ですぐさま追いつく。
市原が前半終了間際に主将中西のゴールで追加点をあげても福岡はビスコンティがチーム史上初のハットトリックを達成して試合終了10分前には逆転してしまう。こうした点の取り合いは両チームのファンでなければ非常に楽しい試合だろう。だが、負けている市原サポーターにとっては悪夢のような展開である。
折悪しく、この時残留争いのライバル、京都サンガは2-1でリードしていたのだからなおさらだ。
 この試合を落とせば勝ち点差は一気に1へと縮まる。残り2試合で勝ち点差1は、チーム状態の悪い市原には危機的状態となる。
 だがその4分後、市原は福岡DF陣の連携ミスから生じた起死回生の絶好機を昨季チーム得点王でもあるFWのバロンが豪快に蹴り込んで勝負を振り出しに戻す。
 奇しくも市原の選手たちの歓喜の輪が出来たほぼ同時刻に京都は同点にされている。
余談だが勝負の流れを失った京都はそのまま後半ロスタイムに逆転され、この敗戦のショックを引きずるように京都は結局J2へ降格することになってしまう。
 さて、ようやく振り出しに戻った試合もすでに延長になってから12分が過ぎていた。市原はオーバーラップしてきていたDFオラロイが左サイドに張っていたバロンへポンと浮き球のパスを送った。それをしっかりと受け取ったバロンが相手DFを振り切ってゴールラインすれすれの所まで持ち込み、センタリングをあげた。
 本来ならセンタリングを出す方ではなく、待ち構えていて決める方である彼にしては比較的いいセンタリングだ。
 とはいえ少し、少し大きすぎる―。
 大きすぎたおかげでW杯代表にも選ばれた福岡のGK小島といえど手に触れるのがやっとの絶妙なセンタリングだったが、大きく山なりに上がったボールはGKの前まで突進してきていたオラロイをあざ笑うかのように彼の頭上を通り過ぎていった。

 テレビ観戦していたある人は安堵の溜息を漏らし、また他の誰かは思わず頭を抱え、暗い予感が脳裡を掠めたことだろう。
 だが逆サイドのゴールライン手前に迫ってきていた選手がゴール前をスライドしていくテレビ画面に颯爽と飛び込んでくる。
―広山望だった。
 1996年、習志野高校から入団してきた彼は切れ味鋭いドリブルを持ち味に新人の時からレギュラーとして活躍していた選手だ。
 だが今年は怪我もあってかほとんど試合に出られていなかった。怪我も癒え、試合勘は戻っていると彼自身は考えていたが、まだ90分フルで使ってはもらえていない彼に、チャンスは廻ってきた。
 ボールから遠ざかろうかという不自然な体勢ではあったものの身体を捻りながら左足でチョンと軽くボールに触れる。進行方向を変えられたボールはゆっくりとゴールの中へ転がっていく。
 ジェフサポーターの面々が、目の前で決まった決勝点に総立ちになり、歓喜の雄叫びがスタジアムを震わせる。シュートをした後、そのままコーナー付近まで駆け寄っていた広山にアシストをしたバロンを含めた2,3人のチームメイトが駆け寄っていく。
 ―市原にとっては事実上の残留決定。
 とはいえそれが万全のものではなく、薄氷を踏むようなものであり、多分に運のおかげであることは否定できないものだった。京都サンガが後半終了間際に逆転されるという悪夢のような展開で負けていたことや福岡のクリアミスがなければ京都との立場は全く違うものになっていたはずなのだから。
「バロンと組めれば、自信があった」
 試合終了後の広山のコメントと、怪我からの完全復活を印象付けたプレーはファンを安堵させるに足る言葉だと思えた。何せ怪我で長期欠場するまではアシストランクの上位にあった選手である。来シーズンには残留争いをしないですむかもしれないという期待をかけるのも無理はないことだった。
 だがほんの3ヶ月余りのあいだに、全てはファンが予想すらしていない状況へと転がっていってしまった。なんと市原は昨年の主力を8人も放出するという大改革を行ったのである。市原を去って行った選手の中には自分の意志で移籍していった者や解雇された者などまちまちだったが、この数字が尋常でないことは間違いない。
 もっとも、今年7月現在で2位につけているのだから世の中分からないともいえる。
放出したリストの中に広山望の名前もあったというのに。

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