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「……はい、そういうことになりますね、今のところ。次の質問でしたか、被害者の死因に関してはまだ我々としても決めかねている状態です」
「あの、今までの死因不明の殺人事件との関連があるとお思い何でしょう?」
「もう三件目、調査が進まないことには井代市や佐崎市だけでなく、さらに周りの市町村でも犠牲者が出てくるんじゃないですか?」
記者の激しい論調に柴峰警部は肩身が狭そうだった。
現場に立ち合わせてもらった松枝はそうした成り行きを醒めた目で眺めていたが、葵は記者の言うことにも一理あるような気がして、手厳しい質問に耳を澄ましていた。
「葵くん、記者の言うことをいちいち間に受けてないでよ。ああした言葉の中にどれだけの本音が含まれているか、それを知ることもあなたにとっては貴重な勉強なはずでしょ」
「そうですね。でも、本当にもう三件目、ですから――」
葵は取材陣の方から眼を逸らし、松枝に向き直るとうめくように呟いた。
「そろそろ、真犯人を見つけないと――アイツが浮かばれませんからね」
「……ああ、葵くんの友達ってこのこと?」
彼は答えを返すことなく、何事か考えるようにして、目を閉じた。
「蘆田は……蘆田公則は僕にとってかけがえのない親友でしたから」
蘆田公則は葵より二つ年上の優しい先輩だった。もっとも蘆田は一浪して北大に入ってきたから、葵とは一学年しか違わなかった。
蘆田との出会いは新入生歓迎会の時だった。
バンドサークル『レアル・チェルト』のビラ配りをしている際、たまたま側を通り過ぎようとした葵に声を掛けたのがきっかけだった。
もし葵が蘆田からビラを受け取った際に言葉を交わさなかったら、葵がレアル・チェルトに入ることはなかったろう。
そして彼らがこの後三年間つるむこともなかったに違いなかったのだ。
蘆田は音大を目指していたというくらいだから、作曲からギター、ピアノといった演奏までほとんどあらゆることを手がけた。
彼がやらなかったのは作詞やボーカルくらいのものだが、それも全部自分がやるとみんなが楽しめなくなるからと言っていた。
『作詞はショースケ、お前のが一番しっくり来るから、お前がやってくれよ』
蘆田はそう言って新しく曲を作る度に葵を誉めてくれた。そしてそんな彼との会話の中で葵は蘆田自身が作詞やボーカルのセンスはあまりないと思い込んでいるように思え、随分不思議な気がしたのを今でも覚えている。
蘆田と一緒に作った歌は、コンビを組んだ三年間で十曲を優に超えた。
そうした曲を大学祭などのイベントの際に仮設ステージで発表する時の快感。葵にとって大学時代を最も充実させた事は、こうした曲作りだったのだ。
あの時のレアル・チェルトの面々はそれぞれの色こそ異なっていたものの、本質的なところでは似たもの同士だったのだと葵は考えている。
だからレアル・チェルトはあたかも一個の生体となることができ、その結果として観客へ様々な感動を与えることができたのだと今も信じているからだ。
葵は大学を卒業した後も、折に触れてレアル・チェルトの演奏へ通うようにしていた。その時だけはレアルを引っ張ってきた『戦友』と旧交を温められるからだ。
中でも蘆田と会った時には徹夜で飲んだことが一度ならずあったものだった。
会話は大学時代の話、近況報告がほとんどだったが、その日に聞いたレアル・チェルトの批評も必ず出てくる話題の一つだった。
その度に蘆田は言っていた。俺が四年の時のメンバーが最高だった、と。それは蘆田や葵ら当時のメンバーだけではなく、葵の後輩たちもが口を揃えて言っていることだ。
『作曲はもちろんだけど、作詞もかなりいい』
おだてられているだけだなどと出来るだけ素っ気なく答えるようにしていたが、葵もそうして褒められることにまんざらでもなかった。
最高のレアル・チェルトの一メンバーとして、蘆田公則のパートナーとして認められているということだと解釈していたからだ。
『いつか、あの時のメンバーの演奏が聞けたらいいですよね』
本気かどうか分からないが、来年合同でライブをやりませんかと現メンバーに真剣に口説かれたこともあった。
あの時は蘆田を始め全員が丁重に断ったのだが、もし仮に後輩の熱意に折れていたとしてもあのメンバーの演奏を聞くことはもう叶わぬ夢になってしまったのだ。
有名音楽会社に入社して三年、本来ならば順風満帆なはずの彼の人生は、いまだ解明されていない怪死で幕を閉じることになってしまったから。
蘆田の家族から訃報を知らされた時も葵は取り乱すことはなかった。皮肉なことに、それは蘆田以上に大切な人へ災難が降りかかった経験があったからだ。
とはいえ、親友の葬儀から一週間は仕事中も気分が滅入って集中力を欠いてしまった。
葬儀には葵を始め、北大時代の関係者が多数詰め掛けたことから蘆田の人望の厚さを今さらながらに痛感したのだが、あまりに早すぎると誰もが思ったことだろう。
直接見たわけではないが、蘆田の死に顔は恐怖と驚愕が張り付いていたという。
蘆田の仇を討ちたい。
葵はLOSのメンバーとしてでなく、親友としてその殺人事件を調べたかったが、この事件は結局木戸さんが受け持つことになった。
チーフとしても弟の心情は理解できるが荷が重過ぎると判断したらしい。木戸沢はすぐに犯人を見つけると言ってくれたが、今なお事件の実体を捉えきれていない。
――これは蘆田の遺志かもしれない。
葵は漠然とそんなことを考えていた。
彼の死後、さらに二人も同じような死に方をした被害者が出た。これは蘆田の死が無駄になっていることにつながる。だが、そのおかげでLOSとしても調査に出す人数をさらに増やさざるを得ず、葵が加わることになったのだから。
それは是非とも葵に仇を取ってほしいという遺志だと彼は解釈したかったのだ。
もっとも不安がないわけではなかった。
事件に対して感情的に取り組みすぎるが故に物事を正しく判断できるかどうか疑問があるし、犯人を私刑によって死に至らしめることなくチーフ、もしくは警察に引き渡すことが出来るのかという点では正直あまり自信がなかったのだ。
とはいえ、チーフの期待に応えないわけにはいかないということも事実である。<<back<>next>>
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