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 そうしたドイツ戦の成功体験があるからか、残り時間が5分を切ってもアイルランドは得意のロングボールを使った猛攻はスペインの選手たちを脅かし続け、特にクインのヘディングを押さえ込むのに苦労していた。
 87分にもロビー・キーンがペナルティエリア付近でボ―ルを受けてセンタリングを上げるというチャンスがあった。しかしDFとの競り合いでクインが思うようなプレイが出来ずにチャンスを活かせなかった。
その2分後、FKを得たアイルランドは今まで通りクイン目掛けてロビングを送ったものの、彼はまともに競り合うことすらできずボールは逆サイドを転々と転がっていった。クインという攻撃の起点が抑えられつつあるかに見えた。
 しかし、ものすごい歓声に吹き消されかけていたものの、フリスク主審がペナルティスポットを指差しながらホイッスルを吹き鳴らしていた。土壇場でアイルランドに2回目のPKが与えられたのである。
 そのPKはクインのユニホームを掴み、跳び上がらせなくさせていたスペインDFのファウルに対してのものだった。愚直なまでに自分たちのサッカーを貫いていたアイルランドに勝利の女神がほんの少し微笑んだ瞬間だったのかもしれない。
 すでにハートが交替していたこともあって今度はロビー・キーンが蹴った。決して強く鋭いシュートではなかったが、GKの逆をついてゴール左スミへ決まった。それは狙ったものだったのか、ただの偶然なのだろうか。そのシュートコースはイアン・ハートが止められたときとほとんど同じものだった。アイルランドのベンチ前ではハートが顔を紅潮させながら、チームメイトたちから手荒い祝福を受けていた。
 その後はお互いに決定的と呼べるチャンスは作れず、後半終了を告げるホイッスルが高々と鳴り響いた。
 当たり前のことだが、大会はすでにリーグ戦ではなくノックアウト方式の決勝トーナメントである。
 90分が終わったからといっても、決着がつかない場合、試合はゴールが決まったらそこで終わりというゴールデンゴール方式の延長戦、それでも決まらなかったらPK戦にもつれこむ。
 余談になるが、このゴールデン・ゴール方式は日本がJリーグ発足当時にサドンデスという名称で導入したのが最初で、国際大会で本格的に使用され始めたのは96年の欧州選手権までさかのぼることができる。今大会ではあまり見られなかったが、前回のフランス大会では優勝したフランスがゴールデン・ゴールで勝利を収めた試合もあった。まさに日本が世界に誇れる数少ないサッカー文化の一つだと言える。

 今大会2度目の延長戦は、後半終了間際の勢いを持ちこんだアイルランドがペースを握って進んでいった。
 それもスペインが攻撃の軸となる二人の選手――ラウルとモリエンテス――を下げていたことを考えたならば当たり前のことだといえよう。とりわけポジショニングの上手さとずば抜けた得点感覚を持つラウルがいないことで、攻めはどうしても単調になってしまっていた。
 それでも一人前線でチャンスを待ち構えていたスペインのFWルケや、彼をフォローしている攻撃陣は何度か決定機を作っていたが、アイルランドはGKギブンの必死のセーブでゴールを許さなかった。
 とりわけ延長戦も後半になってくると疲れからかアイルランドの動きが精彩を欠き始めスペインの攻撃も目立つようになってきたのだが、それでもシュートに持ち込むのがやっとという状況だった。そのような苦境で未熟さを露呈したのがロビー・キーンだった。延長戦に入ってからも何度かシュートを撃ってはいたものの精度が落ちてしまってゴールの枠に飛ぶシュートはほとんどなかったのだ。
 途中出場で疲労度が低かったとはいえ、クインが何とかスペインの選手に競り勝ち、敵陣深くでうまくボールを落としていただけに、スタメンで出場していたロビー・キーンとダフのプレーはいただけなかった。


 延長戦ではどちらも決め手を欠いたために試合はPK戦にまでもつれこんだ。
 アイルランドは2番目に蹴ったホランドがバーに当て、その後のコノリー、キルバーンがGKに止められてしまい、あと一本決められると負けという局面まで瞬く間に追い詰められてしまった。それほど優位に進めながらもスペインは3人目のファンフラン、次のバレロンが枠を外してしまい、5人目のメンディエタの出番が回ってきた。
 メンディエタはゴール真中へ撃ち、右サイドに跳んだGKは止めきれず、長かった試合はスペインの94年以来のベスト8進出という結果で幕を閉じた。

 そしてそれはアイルランドのW杯がベスト16で終わったことを意味していた。

 だがミック・マッカーシー監督は胸を張る。
「自分のチームに誇りを持っている。みなフレキシブルに対応して、必ず勝つという強い気持ちを持っていた。ここまでこられて、素晴らしいワールドカップだった。すべてのプレーヤーが最高のプレーをした。後悔はない」と言い切っているのである(※注1)。
 確かに、粘り強く試合終了のホイッスルが鳴るまでファイトし続けるチームは見ていて楽しかったし、素晴らしいものだった。そしてロビー・キーンやダミアン・ダフに代表される若い選手たちの着実な成長は今後の代表チームにも貴重な糧となるだろう。
 ロビー・キーンはサウジアラビア戦では目の覚めるような強烈なボレーシュートも放ち、今大会3ゴールを挙げている。さらにダミアン・ダフも同じくサウジアラビア戦でアジア最高と謳われる名GKデアイエがパンチングで弾ききれないほど強烈なシュートで1得点をマークしている。
 しかし今回の代表メンバーの中で、次のW杯にも出られそうな選手は半分くらいしかいない。現在36歳のベテランFWクインはまず間違いなく不可能だろう。次の世代が台頭してこない限り過酷な欧州予選を勝ち抜くことは難しいかもしれない。
 だが今回のW杯で見せた最後まで勝負を諦めない精神を持ち続け、今回は有望な若手に過ぎなかったキーンやダフが順調に成長していったならば、次のW杯ではさらに上のステージへ進むこともできるような気もするのだ。
今回のアイリッシュ・グリーンはそんな期待を抱かせてくれる好チームだった。その戦いぶりは多くのサッカーフリークの眼に焼きついたであろうことも疑いない。

 

 ※注1 選手の出場記録、監督の公式コメントなどは『W×W週刊サッカーマガジンvol.7』(ベースボールマガジン社発行)を参考にしました。また写真につきましては『SPORTSNAVI.COM』(http://www.sportsnavi.com/)のものを転載させていただいております。

 

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